甲府地方裁判所 平成10年(行ク)1号 決定
事実及び理由
第三 当裁判所の判断
一 申立人適格について
1 建築基準法によれば、建築確認は、申請された建築物が建築基準法及びその他の建築物に関する法令の規制に適合するかどうかを審査し、これを公権的に確認する行政手続であるところ、同法は、その規定一条、五五条、五六条、五六条の二等)からすると、一般的な生活環境の保全を目的とするだけでなく、日照、防災及び衛生等の近隣住民の個別的かつ具体的な生活利益をも保護することを立法趣旨としていると解せられるから、建築確認がされた建築物の近隣居住者は、当該建築物が同法に適合していない結果、その具体的生活利益が侵害される場合、当該建築確認の取消しを求め得る適格があるというべきである。
2 ところで、建築基準法は、四三条一項、四二条一項において、建築物の敷地は、幅員四メートル以上の道路に二メートル以上接していなければならないと規定しているところ、本件疎明資料(本件記録及び本案事件記録)によれば、<1>相手方は、参加人から、本件土地に本件建物を建築するためにされた建築確認申請に基づき、平成九年一一月二五日、本件処分をしたが、本件処分は、本件土地はその北側において幅員四メートルの道路(本件北側道路)に二一メートル接しているとして建築基準法所定の接道義務に適合しているとしてされたこと、<2>なお、右建築確認申請の添付図面には、本件土地は、その西側において幅員四メートルの道路(本件西側道路)にも接していると表示されていること、<3>しかし、本件北側道路及び本件西側道路の幅員は、いずれも四メートル未満であること、<4>ところで、建築基準法における特定行政庁であった山梨県知事は、昭和二五年一二月一八日、山梨県昭和二五年告示第二九九号において、建築基準法四二条二項の規定により、甲府市の都市計画区域内にある幅員四メートル未満、一・八メートル以上の道を同項の道に指定し、昭和三五年九月一九日、同告示による指定を廃止して、山梨県昭和三五年告示第一九六号において、建築基準法四二条二項の規定により、甲府市の都市計画区域内にある幅員四メートル未満、一・八メートル以上の道を同項の道に指定したこと、<5>その後、建築基準法における特定行政庁となった甲府市長も、昭和五五年五月五日、甲府市昭和五五年告示第五〇号において、建築基準法四二条二項の規定により、甲府市の都市計画区域内にある幅員四メートル未満、一・八メートル以上の道を同項の道に指定したこと、<6>したがって、相手方は、本件北側道路は、建築基準法所定の幅員四メートルの道路ではないものの、山梨県知事又は甲府市長によりいわゆる二項道路の指定がされたものとして、本件処分をしたこと、などの事実が一応認められる。
3 しかし、本件疎明資料によっても、建築基準法が施行された昭和二五年当時、本件道路が、右二項道路に指定される要件を充たしていたものとは認められないといわざるを得ない。
すなわち、建築基準法四二条二項は、同法三章の規定が適用されるに至った際、現に建築物が建ち並んでいる幅員四メートル未満の道で、特定行政庁の指定したものは、同条一項の規定にかかわらず、幅員四メートル以上の道路とみなす旨規定しているところ、本件疎明資料によれば、昭和三三年一二月に撮影された空中写真及び昭和三四年五月に現地調査して作成された地図には、本件土地及びその東側隣接地である申立人居住地には、いずれも建築物があり、申立人居住地は、その東側で県道に接しているところ、申立人居住地の北側には、別の建築物があり、その間に右県道からの道路が表示されているものの、本件土地の北側には、建築物及び道路は表示されていないから、その余の点を判断するまでもなく、本件土地の本件北側道路をもって、建築基準法四二条二項所定の二項道路であるとすることはできないといわざるを得ない。また、本件西側道路についても、右空中写真及び地図には、本件土地の西側に建築物が存在するとの表示がされておらず、右同様に、本件土地の本件西側道路をもって、右二項道路であるとすることもできないといわざるを得ない。
なお、相手方は、昭和二五年の建築基準法施行後、本件北側道路に接した土地において、建築確認を得て建築された建築物が少なからず存在することをもって、甲府市における建築確認行政手続においては、本件北側道路が二項道路として取り扱われてきたのであり、これを現時点において覆すことは法的安定性を害する、と主張するが、たとえ、甲府市における建築確認行政手続において、従前から、右のような取扱いがされてきたとしても、このことから、建築基準法が施行された昭和二五年当時、本件北側道路が、建築基準法所定の要件を充たしていたものと推認することはできない。また、右のような取扱いがされてきたことにより、右要件を充たさない道路が二項道路に指定されたとすることができないことはいうまでもない。
そうすると、本件建物は、建築基準法の接道義務に適合していない建築物であると一応認められることになる。
4 ところで、建築基準法が接道義務を課しているのは、当該建築物を利用する上で、敷地が道路に接していることが通行及び災害時の避難等の安全のために必要であるからである。したがって、本件建物が接道義務に違反している場合、本件建物の居住者のみならず、その隣接居住者である申立人の安全に影響が及ぶものといわざるを得ない。
5 なお、相手方及び参加人は、本件建物は、既に完成しており、そうでないとしてもほぼ完成しているから、申立人には、本件処分の取消しを求める利益はなく、それゆえ、本件停止を求める利益もない、と主張するが、後記のとおり、本件建物はいまだ完成しておらず、仮にほぼ完成している状態にあるとしても、それが未完成であることに変わりがない以上、ほぼ完成している状態にあるということは、本件停止を求める利益の有無を検討する際に考慮すべき事由になるにすぎず、そのこと自体によって、本件処分の取消しを求める利益そのものがないとすることはできない。
また、参加人は、本件請求が、申立人の権利濫用であると主張(なお、これは、申立人には、そもそも本件請求及び本案事件について、訴えの利益がないという主張でもあると解される。)するので、以下、検討する。
本件疎明資料によれば、<1>参加人は、当初、本件土地上に三階建ての建物の建築を計画し、その建築確認も得たが、申立人からの要望もあって、右建築確認申請を取り下げて、二階建ての本件建物の建築に計画を変更し、改めて、本件建物の建築確認申請をしたこと、<2>参加人が、本件土地に建物建築を計画した後、申立人と参加人との間において、本件土地の東側隣接地である申立人居住地の南側に存する通路の通行をめぐって紛争があり、参加人から、申立人に対して、右土地に申立人が設置した木製看板及び金属製鎖等の撤去並びに参加人の通行妨害行為の禁止を求める仮処分申立(平成九年(ヨ)第一四九号仮処分命令申立事件)がされ、当庁は、平成九年一一月一〇日、これを認める決定をしたこと、<3>現在も、申立人と参加人との間において、所有地との境界をめぐる紛争が継続していること、<4>申立人は、参加人がこれまで本件土地の管理を十分していなかったことに加え、本件建物が共同住宅であるから、これが建築されると、その居住者等が多数出入りすることになり、周辺地区に通行妨害及び火災等の危険が生じることが予想されるのに、参加人は遠方に居住しており、右の危険を避けるための管理等をすることができないことと懸念していること、などの事実が一応認められる。
しかしながら、右のような事実があるとしても、そのことから、直ちに、申立人の本件請求及び本案事件が権利の濫用であって、これが許されないとか、申立人には、本件申立をすることのできる法律上の利益がないとすることはできないといわざるを得ない。
二 本件停止決定の必要性について
1 本件疎明資料によれば、申立人は、当裁判所に対し、平成一〇年二月二七日、相手方を被告とする本件処分の取消しを求める訴え(本案事件)を提起し、現在、これが係属していることが一応認められる。
2 本件疎明資料によれば、本件建物は、現在、その外形部分がほぼ完成しているが、参加人は、本件申立後、本件建物の建築工事を中止しているため、本件建物の下水道部分及びフェンスの設置工事がされていないままになっている、と一応認められる。
そうすると、本件建物は、いまだ未完成であるというべきである。
3 ところで、本件建物が完成してしまうと、申立人は、本案事件について、訴えの利益を失うと解せられるから、本件建物が完成することによって、申立人は、本件処分の取消しを求める機会を失ってしまうことになる。
したがって、申立人には、その余の点を判断するまでもなく、本件処分の執行により回復困難な損害があるということになり、これを避けるためには右執行を停止すべき緊急の必要があると認められる。
三 結論
以上によれば、本件申立は、理由があるから、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 秋武憲一 裁判官 萩本修 松井芳明)